つけ麺専用麺って何が違うの?製麺一筋の職人が本音で語る麺の話

こんにちは、佐々木製麺の佐々木健一です。
今日は「つけ麺専用麺」について、製麺所を営んで30年以上の経験を踏まえて、本音でお話ししたいと思います。よく「つけ麺の麺って普通のラーメンと何が違うの?」というご質問をいただくんですが、これがまた奥が深いんです。
つけ麺ブームが始まって久しいですが、まだまだ「麺はどれも同じでしょ?」と思われている方も多いんですよね。でも実際は全然違うんです。今回は、そんなつけ麺専用麺の世界を、製麺職人の目線からお伝えしていきます。
ラーメン麺とつけ麺専用麺、何がそんなに違うのか
太さが全然違います
まず一番分かりやすいのが太さの違いです。普通のラーメン麺が1.2mm〜2.0mm程度なのに対して、つけ麺専用麺は2.5mm以上、太いものだと3.5mmなんてのもあります。
なぜこんなに太くするのか?これには理由があるんです。
つけ麺って、麺を一度冷水で締めてから食べますよね。細い麺だと、この工程で麺がふにゃふにゃになってしまうんです。太い麺だからこそ、冷水で締めた後もコシが残る。そして、濃厚なつけ汁にも負けない存在感を保てるんです。
うちの製麺所でも、つけ麺専用麺を作る時は、切り刃から全て変えて作業します。細麺用の設備では、とてもじゃないけど作れませんからね。
加水率のこだわり
これは一般の方にはあまり馴染みがない話かもしれませんが、麺作りにおいて「加水率」というのはとても重要なんです。
つけ麺専用麺は、普通のラーメン麺よりも高い加水率で作ることが多いです。大体35%以上、場合によっては40%を超えることもあります。
高加水の麺は、もちもちした食感になるんです。そして時間が経ってものびにくい。つけ麺って、どうしても食べるのに時間がかかりますからね。最後の一本まで美味しく食べてもらうには、この高加水が欠かせないんです。
私が20年以上お付き合いさせていただいている「とんこつラーメン七志」の河口料理長とも、つけ麺の麺について何度も議論を重ねました。「最後まで美味しく食べられる麺を」という想いは、製麺職人として絶対に外せないポイントなんです。
つけ麺専用麺の種類と特徴
極太ストレート麺の魅力
つけ麺専用麺の王道といえば、やっぱり極太ストレート麺です。太さ2.8mm〜3.2mm程度で、まっすぐな形状が特徴です。
この麺の良さは、何といっても小麦本来の味を感じられることです。太い分、小麦の香りも強く出るんです。そして、つけ汁との絡みも良い。
製麺する側から言うと、ストレート麺は技術が如実に出る麺でもあります。ごまかしが利かないんです。だからこそ、うちでは小麦粉の選定から生地の練り方まで、特に気を使って作っています。
平打ち麺の可能性
最近、お客様からのオーダーが増えているのが平打ちタイプのつけ麺専用麺です。
平打ち麺の最大の特徴は、つけ汁との接触面積が大きいこと。これによって、一口ごとにしっかりとつけ汁の味を感じられるんです。
ただし、平打ち麺は製麺技術的には結構難しいんです。厚みを均一に保ちながら、なおかつ食感を損なわないように仕上げる。これがなかなか一筋縄ではいかない。
でも、完成した時の満足感は格別です。お客様に「この麺、今までで一番美味しい!」なんて言われた日には、もう職人冥利に尽きますね。
手打ち風不規則麺の新しいアプローチ
最近、うちでも力を入れているのが手打ち風の不規則な形状の麺です。
ただ、ここ最近は製麺技術も進化していて、面白い手法が生まれているんです。私たちが多加水麺を作って、お店の方で手揉みして手打ち風にしてもらう方法です。
この方法の良さは、麺の品質は製麺所で保証しつつ、お店の個性を活かせることなんです。同じ麺でも、揉み方によって全然違った食感になる。お店の方の技術と感性が活かされるんです。
太さにわざとばらつきを作ることで、一口ごとに違った食感を楽しめる。細い部分はつけ汁がよく絡み、太い部分は小麦の風味をしっかり感じられる。
この連携プレーが、新しい時代の麺作りなのかもしれませんね。
市販のつけ麺専用麺、製麺職人が選ぶならこれ
東洋水産の山岸一雄監修シリーズ
同業者として素直に「すごいな」と思うのが、東洋水産さんの「山岸一雄監修 つけ麺専用中華麺」です。
大勝軒の山岸さんといえば、つけ麺の神様のような方。その方が監修した麺ですから、当然クオリティは高いです。家庭用としては、なかなか良くできていると思います。
ただ、やっぱり製麺所で作る生麺には敵いませんけどね(笑)。
日清食品チルドの技術力
日清食品チルドの「麺の達人 つけ麺用極太麺」も、技術的に見て興味深い商品です。
チルド(冷蔵)商品でありながら、生麺に近い食感を実現している。これは製麺技術と保存技術の両方が高いレベルで融合した結果だと思います。
大手メーカーの技術力を感じる商品ですね。
菊水の老舗の技
北海道の菊水さんも、老舗製麺会社として尊敬している会社の一つです。
「つけ麺専用手打ち式極太麺」は、手打ち風の食感を機械で再現するという、技術的に難しいことにチャレンジしている商品です。
同じ製麺業界にいる者として、その技術力には脱帽します。
つけ麺専用麺の正しい茹で方、教えます
茹で時間は麺によって全然違う
よく「つけ麺の麺はどのくらい茹でればいいの?」と聞かれるんですが、これは麺によって全然違うんです。
太さ2.8mmの麺なら4分程度、3.2mmなら5分以上。でも、これはあくまで目安です。加水率や小麦粉の種類によっても変わってくるんです。
製麺職人としてお客様にいつもお伝えしているのは、「茹で始めて3分経ったら、一度麺を取って確認してください」ということです。中心部にほんの少し芯が残っている状態がベストです。
冷水で締める時のコツ
つけ麺の美味しさを決める重要な工程が、この冷水で締める作業です。
ポイントは、茹で上がった麺をすぐに冷水に入れること。そして、しっかりと流水で洗うこと。麺の表面のぬめりを取ることで、つけ汁との絡みが良くなるんです。
家庭でやる時は、氷水を使うとより効果的です。急激に冷やすことで、麺の表面が締まって、コシの強い食感になります。
水切りは丁寧に
意外と軽視されがちなのが、この水切りの工程です。
水切りが不十分だと、つけ汁が薄まってしまうんです。せっかく美味しいつけ汁を用意しても、これでは台無しです。
ザルでしっかり水を切った後、清潔な布巾で軽く押さえるように水分を取る。これだけで、格段に美味しくなります。
つけ汁との相性、これが一番大事
魚介系には繊細な麺を
魚介系のあっさりしたつけ汁には、麺本来の小麦の風味を活かせる繊細な麺が合います。
といっても太さは2.8mm以上。つけ麺専用麺の範囲内で、できるだけクセの少ない麺を選ぶということです。
魚介の繊細な味を邪魔しない、でもしっかりとした存在感はある。そんな絶妙なバランスが求められるんです。
豚骨系には個性的な麺を
濃厚な豚骨系つけ汁には、平打ち麺や手打ち風の個性的な麺がよく合います。
豚骨の濃厚さに負けない、しっかりとした個性を持った麺。そして、つけ汁をよく絡め取る形状。この組み合わせで、豚骨つけ麺の醍醐味を味わえるんです。
味噌系にはコシの強い麺を
味噌系のつけ汁は、一般的に粘度が高めです。だからこそ、しっかりとしたコシのある麺が必要なんです。
味噌の濃厚さに負けない存在感、そして最後まで食感が保たれるコシの強さ。これを両立させた麺を作るのは、製麺職人としても腕の見せ所です。
家庭でつけ麺を作る時のコツ
つけ汁の温度は絶対に下げない
つけ麺で一番大切なのは、つけ汁の温度管理です。冷たい麺と熱いつけ汁の対比が、つけ麺の醍醐味ですからね。
家庭では、つけ汁を小鍋で温めながら食べることをおすすめします。面倒に思われるかもしれませんが、これだけで格段に美味しくなります。
麺は食べる直前に茹でる
つけ麺専用麺は、茹で置きには向きません。時間が経つと、せっかくのコシが失われてしまいます。
面倒でも、食べる直前に茹でる。これがつけ麺を美味しく食べる鉄則です。
トッピングにもこだわりを
つけ麺のトッピングは、麺とつけ汁の味を引き立てるものを選びましょう。
チャーシュー、メンマ、海苔、ネギ。これらの定番トッピングは、やっぱり理にかなっているんです。特にチャーシューの脂は、つけ汁に溶け出して旨みを増す効果もあります。
つけ麺専用麺の保存、プロの知恵
冷凍保存のコツ
つけ麺専用麺を冷凍保存する時は、一食分ずつ小分けすることが大切です。
麺同士がくっつかないよう、軽く打ち粉をしてから冷凍用袋に入れる。そして空気をしっかり抜く。これで3ヶ月程度は保存可能です。
ただし、品質を保つためには1ヶ月以内に食べることをおすすめします。
冷蔵保存は短期間で
生麺の冷蔵保存は、基本的に2〜3日が限界です。
麺が乾燥しないよう、密閉容器に入れて保存してください。もし表面が乾燥してしまった場合は、茹でる前に霧吹きで軽く湿らせると、ある程度食感を回復できます。
佐々木製麺のつけ麺専用麺への想い
お客様と一緒に作り上げる麺
うちの製麺所では、お客様のご要望に合わせたオーダーメイド麺を数多く手がけています。
つけ麺専用麺についても、お店のスープに合わせて太さや加水率を調整し、そのお店だけの特別な麺を作ることができます。
これまでも、かぼちゃ麺やクロレラ麺、タピオカ麺など、30種類以上の変わり種つけ麺専用麺を開発してきました。お客様の「こんな麺は作れませんか?」という要望に応えるのが、私たちの喜びなんです。
一麺万倍の精神で
私たちが何よりも大切にしているのが「一麺万倍」という言葉です。
一つの麺が良い評価になって万倍になって返ってくる。逆に悪い評価も万倍になって返ってくる。だからこそ、お客様のために魂を込めて一所懸命に麺を作る。
つけ麺専用麺は、特に技術が要求される麺です。でも、だからこそやりがいがあるんです。
これからのつけ麺専用麺
つけ麺文化はまだまだ進化していくと思います。新しいスープが生まれれば、それに合う新しい麺も必要になる。
私たち製麺職人は、その変化に対応していかなければなりません。伝統的な技術を大切にしながら、常に新しいことにチャレンジしていく。それが佐々木製麺の姿勢です。
まとめ:つけ麺専用麺の奥深い世界
つけ麺専用麺について、製麺職人の視点からお話しさせていただきました。
つけ麺専用麺は、単なる「太い麺」ではありません。つけ麺という食べ方に最適化された、高度な技術の結晶なんです。
太さ、加水率、形状、すべてに意味がある。そして、それぞれのつけ汁に合わせて最適な麺を選ぶことで、つけ麺は格段に美味しくなります。
もし「つけ麺をもっと美味しく食べたい」「お店でつけ麺用の麺を探している」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度佐々木製麺にご相談ください。お客様の想いに寄り添った、最高のつけ麺専用麺を一緒に作らせていただきます。
つけ麺専用麺の世界は、まだまだ奥が深いです。これからも、より美味しい麺を求めて、日々精進していきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。美味しいつけ麺ライフを楽しんでくださいね!